『金の価値、宝石の価値』
(宝石日誌第118、119回 (2023年1月26、27日)より)
今回の宝石日誌は、題材を貴金属にも広げて、金(ゴールド)と宝石の価値について考えます。
◯金の装身具
1月27日に配信されたCNNネットニュースに、以下の記事がありました。
(記事タイトル)
『2300年前のエジプトのミイラ、発掘
100年ぶりに明らかになった「黄金」の正体』
あるエジプトのミイラ(2300年前と推定)をコンピュータ断層撮影で分析した結果、ミイラと一緒に黄金などをあしらった数十個のお守りが棺に納められていたことがわかった、とのニュースです。
お守りはほとんどが金で作られており、一部宝石や焼いた粘土、陶磁器などが使われたお守りもあったとのことです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/86cb35c710e3b9d99d24cecd3f2c453e69e263e8
装身具に使われていたことから、この時代には既に鉱石の採掘、精錬技術が確立されていたことがわかる記事でした。

それに、採掘技術の発達以前であっても、川底の砂金や自然金の露頭などから、ある程度の量の金を入手することは可能だったろうと思います。
数千年も昔、おそらく人類が文明らしい文明を打ち立てる以前から、人々は金に特別な価値を見出していたことと思います。
◯今とは姿の違う“宝石”
2000年前の技術では、地中から採掘した硬い石を加工し、研磨や過熱を行って透明な宝石にすることは難しかったと思われます。
人が手を加えなくても自然状態で美しい稀な結晶が、地上付近に露出している場所(露頭)や川底に溜まっている場所(漂砂鉱床)など、採掘しやすいところから見つかる確率は高くありません。
古代には宝石は現代以上に珍しかっただろうと思います。
例えばダイヤモンドは、研磨、カッティングの技術が発展する19世紀ごろまでは、インドや南米の漂砂鉱床等で見つかった自然状態のダイヤを使っていて、現代のカットされた輝くダイヤとはイメージが違っていたはずです。
採取したときから姿が美しい真珠や、不透明でも色彩や質感が印象的なターコイズ、ラピスラズリ等の輝石の位置付けは、現代より高かっただろうと思います。
◯貴金属の価値は不変
金や銀など、製錬後はそのまま美しさが発揮される貴金属の位置づけも、現代以上に重要だったのではないかと思います。
金について言えば、有史以来採掘された総量は約19万トン(山手線47車両分)とされています。大量のようにも聞こえますが、これで数千年にわたる世界全体の需要を満たしてきたと考えると、決して多いとは言えません。
稀少価値があり、年月の経過で変質することなく、加工して形を変えることも容易なことが金の特長です。
明日をも知れない不安定さに満ち、金融制度も未発達な世界では、(人的ネットワークや技術といった無形資産を除けば)最も当てになる確かな資産だったことと思います。
◯相場高騰の影響
金や銀、精錬技術が確立されて以降はプラチナも含む貴金属は、宝飾品に加工して、各種の宝石を支えるのに最適の素材です。
金が史上最高値の水準に迫るなど、貴金属の相場は上昇しています。
このため、これまで18金(K18※)が当たり前だったネックレスやリングも、比較的廉価なカジュアルジュエリーについては、10金(K10※)とする例が増えているようです。
※ご承知かとは存じますが、純金はそのままでは軟らか過ぎるので、銀や銅など他の金属を混ぜて性質を改善します。
そのときは純金をK24とし、重量比で見た金の割合を品位として表示するのが慣例です。
K18であれば、金の割合は24分の18、約75%となります。
◯価値の貯蔵機能では金に軍配
歴史的経緯を見ても、実物資産としての金には根強い人気があります。
希少価値があるとともに、その価値が汎用的で、測定が容易であることも強みです。
その点宝石は、稀少価値の点では金に劣りませんが、以下の点で価値の貯蔵効果は安定しません。
@宝石の”価値“は結局のところ「人それぞれ」であり、その”価格“は原則として取引の都度相対で決まるものであること。(例えば、これこれの状態のルビー1カラットを◯◯◯円とする、等の客観基準がない)
A@につながりますが、産地、色、インクルージョン、加工の有無等で”価値“が変わり、査定が難しいこと。また、比較的容易に偽造できること。
B将来的な価値の変動要素が多いこと。
例えば、現在安価な宝石の定番となっているアメシストは、南米で鉱山が発見されて供給が安定する以前の中世には、エメラルド、ルビー、ダイヤモンド等と並ぶ貴重な宝石でした。
現在稀少性から高値を呼んでいる宝石が、新鉱山の発見で大きく価格が下落することがないかどうかは見通せません。
価格に共通の客観基準がない宝石は、資産価値を期待して購入するにはリスクがあります。
宝石を投資商品の一つとみなした場合、そのボラティリティ(価格変動の不安定さ加減)は、かなり高いと考えておくべきでしょう。
(価格の不透明さを逆に活用する戦略も考えられなくはありませんが、一般的とは言えません)
◯戦乱のときに真価発揮
1990年台のボスニア紛争を体験した人が書いた「One year in the Hell(地獄にいた1年間)」というブログを読んだことがあります。
民族の対立が先鋭化して、急速に社会秩序が崩壊し、武装せずに街を歩くのが自殺と同義のようになった世界で、どう生き延びたか、という記録です。
内戦の混乱の中で、医薬品や衛生品は貴重品となり、もし手持ちがあれば食料等と交換することができたということです。
また、酒やタバコといった嗜好品は戦乱の中でもやめられないようで、通貨がわりの便利な交換手段となったそうです。
金(ゴールド)についても触れていて、家にあった金製品は全て食料に交換できたとのことでした。
ただし、金の交換方法については注意があり、仮に金のインゴットを所有していたとしても、そんなものを交換に出したら(裕福な家と思われて)帰り道をつけられ、家を襲撃されておしまいだ、とビターな忠告が書かれていました。
金のネックレスや指輪など、妻や娘が大切にしていたアクセサリーを、背に腹はかえられず交換に出した、という風情にするのが最も安全だとのことでした。

色々考えさせる内容でした。
なお、宝石については何も書かれていませんでしたが、戦乱下で宝石を鑑別に出せるわけもなく、金のように柔軟に活用するのは無理だろうと思います。
◯(脱線)10万円金貨という徒花
昭和、平成の頃には、天皇陛下の長期在位や即位等の慶事に伴って記念金貨が発行されることがありました。

昭和の終わり頃に、天皇陛下在位60周年の記念金貨が発行されたときは、額面は10万円、含まれる金の量は20gでした。
当時の金の値段は現在よりかなり安かったので、10万円から金の価値やその他の製造コストを引いてもかなりの差額があり、その分が国庫の収益となりました。
これらの記念金貨は、いつでも銀行の店頭で額面どおりの金額に変えることができます。
また、含まれる金の価値が額面以上になっているときは、市中の買取ショップ等で、金の価値見合いの金額で買い取ってもらうこともできます。
2018年頃に、ちょうど金20gの価格が10万円をやや上回る程度となっていた時期がありました。
そのときふと次のような考えが浮かびました。
金貨の額面と含まれる金の価値が大体一致するときに金貨を買うと・・・
@金の価格が上がったとき
上がった値段で買取ショップ等に売れる
A下がったとき
銀行で10万円に交換できる
このため、上値は制限なく追いかけることができる一方で、下値は10万円で交換できることが決まっていて、事実上元本保証があるのと同様ではないか、と考えました。
何か見落としがあるかも、と思いながら、何枚か購入してみました。
結果として、現時点での買取価格相場は、当時の購入価格の140%以上になっています。とりあえずは、まずまずうまく運んだようです。
<まとめ@:金の価値について>
◯貴金属、特に金は、人類の歴史を通じて特別な価値を保ってきた。
◯価値の貯蔵機能では、宝石は金に敵わない。
◯もし平和が崩れて「北斗の拳」のような時代が到来しても、おそらく金は交換価値を持ち続ける。その場合、インゴットよりもアクセサリー等で持つ方が“安全”。
(現金は「北斗の拳」第一話のモヒカンの台詞のとおり、トイレ紙にもならないかもしれません)
◯昨今の金価格は上昇していて、アクセサリーの金製品の純度にも影響が出ている。
◯金を現物で持つ場合は、一定金額での交換が保証されている日本の記念金貨は、資産として面白いかもしれない。
といったところです。
手持ちの金アクセサリーや金貨は、いずれ食料と交換する日まで、手元に置いておこうと思います。
<まとめA:宝石の価値について>
宝石を現物資産の一つと考えた場合、金などに比べて流動性が低く、長期間の価値の貯蔵機能の面でもリスクが高いと考えています。
また、基本的には現物取引ですので、宝石の売買に関する取引手数料は金融商品と比較すれば高い水準のものになります。
さらに付け加えると、市場での販売価格が、ブランド戦略等によって需給等からみた適正価格から大きく乖離している(稀少価値等に見合う以上に高価である)ことがざらにあります。むしろそれが宝石の本質に近いです。
宝石は資源ではないので、消費して何かを得られるといった直接的な効用はありませんし、美しさの感性は人それぞれで共通の価値基準もありません。
それでも市場で値がついている以上、本来は、この価格であれば買い手がつく水準、として、ある程度適正価格の幅はできあがってくるはずです。
しかし、現実には往々にして、何でこれがこの値段? とびっくりするような値段で売られていることがあります(印象としては、ジュエリーとして店頭やネットで販売されている身近な宝石の方が、より大きく利潤が上乗せされているようです)。
このあたりはきっと、”宝石業界あるある話”だろうと思います
宝石は長期保有の資産に向くかと聞かれれば、上記のような理由から、資産価値を求めるニーズには合わないと思うと答えると思います。
では宝石の長期保有には意味がないのかと言えば、決してそんなことはありません。
自分の後の世代に、できれば自分がその石を好きだったという思い出とともに引き継いでもらう「財産」として、宝石には他ではなかなか見られない優れた価値があると思っています。
【本日のお散歩】
今日は快晴でした。
朝のルビーは心なし弾んだ足取りで、いつもの散歩コースを一回りしてきました。
