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『クロムの発色の不思議』 

宝石日誌第108回 (2023116日)より)

先週の国際宝飾展のセミナー「エメラルドの基礎知識」で、元々透明なベリルがなぜ緑色のエメラルドになるのかについて説明がありました。

今回はそのあたりを少し掘り下げたいと思います。

 

【エメラルドの緑 〜クロムの発色〜】

ベリリウムとアルミニウムの珪酸化合物であるベリルは、大抵の結晶と同様に、本来は透明な鉱物です。(水の結晶である氷も透明ですね)

透明なベリルが微量のクロムを含有することによって緑色を呈したものが、ベリルの変種であるエメラルドです。
なお、実際にはバナジウムも発色に関与していますが、単純化のために割愛します。

 

光は波長によって色が決まっており、可視光線の中で波長の短い方が紫、長い方が赤です。
さらに波長が短いと紫外線、長いと赤外線になって、人間の目には見えなくなります。

ちなみに太陽光は全ての色を含んでいて、色は白く見えます。
太陽光をプリズムで散乱させると、白と見えた光に、紫から赤までの虹色の光が含まれていることがわかります。

 

物質が太陽光などを反射したときに人間の目に映る色は、基本的に引き算で決まっています。

例えば植物の場合は、葉緑体が、光合成のために緑色の波長以外の可視光線を吸収してしまうため、緑色に見えます。植物が光合成に利用せずに捨てた波長の色が緑なわけです。

(余談ですが、太陽光の中で最もエネルギーが高いのが緑の波長なので、葉緑体は一番美味しいところを捨てていることになります。なぜそうなったのかはわかりませんが、進化は必ずしも最大効率を約束しないということの好例です)

 

エメラルドの場合は、ベリルに含まれたクロムが、緑色の波長は透過し、それ以外の色(特に赤の波長)を吸収するために、人の目には緑色に見えます。

 

【ルビーの赤 〜クロムの発色〜】

ルビーの場合も、酸化アルミニウムの結晶(コランダム)が、クロムを含有することで色がつくのですが、エメラルドと違ってその色は赤になります。


ルビーの中のクロムは、赤の波長も吸収しますが、同時に青の波長も吸収するため、色が赤に見えるものです。
同じ物質が、どの結晶に含有されるかで、振舞いが変わってくるのが興味深いところです。

 

【アレキサンドライトの色変わり 〜クロムの発色〜】

アレキサンドライトは、ベリリウムとアルミニウムの酸化鉱物であるクリソベリルの変種で、微量のクロムを含有することによって、光源により青緑や赤紫に変色する性質を持ったものです。

 

クロムが変色効果を示す原理は、少し複雑になります。

アレキサンドライトの場合は、含有されるクロムは、濃青色、黄色〜オレンジ色の範囲の波長の光線を吸収し、赤色と緑色〜青色の波長についてはほぼ均等に透過させます。

 

太陽光は全波長が混ざっていますが、その光の強さ(光量)は一律ではなく、緑色〜青色の部分は赤色の部分の倍ほどの光量があります。

アレキサンドライトは、太陽光の赤色と緑色〜青色をほぼ均等に透過させますが、人間の目には、より光量の強い緑色〜青色の波長が映るため、緑色〜青色に見えます。

 

一方で、電球などによる白熱光は、太陽光のように各色均等ではなく、オレンジ色〜赤色の波長の光を中心に発光しています。

そのため、白熱球の光がアレキサンドライトに当たると、緑色〜青色の波長の光は元々少ないところに、赤色の波長は透過するため、オレンジ色〜赤色の波長だけが目に入り、赤色がかった色に見えることになります。


これが、アレキサンドライトが光源によって色が変わって見える仕組みです。

エメラルドの緑やルビーの赤など、人間の目に快い多様な宝石の色が、わずかなクロム元素がもたらしていることを思うと、少し不思議な気分になります。

 

 

(本項の写真の引用について)
エメラルドとルビーの分光測定結果は「虫眼鏡 ヒカリ」氏のブログから引用しています。
https://roopekirakira.com/bunkou_kensa/

アレキサンドライトのスペクトル説明は「楽観主義者の鉱物図鑑」ブログから引用しています。
https://centaurus.blog.ss-blog.jp/2008-09-14

 

 

【本日のお散歩】

今日も雨模様です。
午前中に降り出して夜まで降ってる予報なので、散歩は朝だけになりそうです。