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『フローライト』 

宝石日誌第3637回 (20221078日)より)

【脆いが優れた特性を持つ石】

フローライト(フルオライト)は、弗化カルシウムの結晶です。和名は「蛍石」。

モース硬度4と柔らかく、さらに、衝撃を受けると割れやすい面が4方向にある(四方向完全劈開性)という、果物でいえば桃のような、とても傷つきやすい鉱物です。

 

そのため、アクセサリー等に加工して使われることはあまりありませんが、古くから様々な用途に活用されてきた、人類に馴染み深い石の一つです。

 

フローライトは、フッ素(弗素)とカルシウムの化合物であり、硫酸と反応させると、フッ化水素酸と石膏が生成されます。このフッ化水素酸から様々なフッ素化合物を作ることができます。

古くからのフッ素の入手経路であり、フッ素(fluorine)という言葉自体が、フローライト(Fluorite)から取られています。

訳語の「弗素」もfluorineのラテン語音を拾った「弗律阿里涅(フリュオリネ)」を略したものです。

従って、歯磨き粉に配合されているフッ素の「フッ」は、フローライトの「フ」から来ているわけです。そう考えると本当に身近な物質という気がしてきます。

 

また、フローライトは、低屈折率、低分散という特性を持っています。

この特性を活かしてガラスと蛍石を組み合わせた「蛍石レンズ」という高級レンズがあることは、カメラファンならよくご存知のことと思います。

 

【多彩な石】

色彩の面では、フローライトは鉱物界屈指のバリエーションを誇ります。

無色透明、緑、紫、青、黄色、灰色、褐色、黒色など、幅広い色があることに加えて、一つの結晶の中に複数の色が帯状にグラデーションで連なるという特殊な発色を見せることもあります。

 

この多様な発色の要因は、微量元素の混入(内包物)によるのか、それとも結晶中の格子欠陥で特定の波長の光が吸収されることによるのか、それらの要素が組み合わさった結果なのか、まだはっきり突き止められていません。

 

 

いくつかの色の例をご紹介します。

 

◯グリーン

写真のものは淡いグリーンですが、他にも明るいミントグリーンからエメラルドのように濃いグリーンまで、幅広い緑が見られます。

 

◯ブラウン

黄色系でも、レモンイエローから、オレンジ、褐色と多彩な色があります。

写真はブラウンのものですが、特に、明るく濃いイエローのフローライトは、ゴールデンフローライトと呼ばれ、稀少価値があるそうです。

 

◯ピンク(写真なし)

フローライトの中では比較的珍しいですが、薄い桜色から濃桃色まで、いろんなピンクが見られるそうです。

 

【ブルーフローライト】

青系の色も水色から暗い青や青緑色まで幅広く対応しているようです。

ミネラル関係のイベントでは、明るめの青や、少し緑が噛んだすっきりとしたブルーグリーンなどをよく見かけるように思います。

 

【レッドフローライト】

はっきりした赤のフローライトは見つかっていませんが、数は少ないながら、ピンクがさらに濃くなったような石も売られているようです。

ただし、自然に赤を発色したものなのか、加熱処理等を加えて人為的に赤くしたものなのかはわかりません。

 

【バイカラー】

複数色のグラデーションもさまざまなパターンで出ているようです。

ちなみに2色だと「バイカラー」、3色以上だと「パーティカラー」と呼ばれることが多いようです。

また、私は持っていないのですが、紫色の濃淡をベースに、青、白、黄色等の縞模様を見せる「ブルージョン」と呼ばれる珍しいフローライトがあるそうです。

異星の樹木をスライスした断面のようで、独特の雰囲気があります。

英国原産で、早くもローマ帝国時代には食器や装飾品に使われていたようです。柔らかさ、脆さを補うために、当時から樹脂で固められたものが多かったそうです。

 

 

単色のバリエーションでは、トルマリンの方がやや種類が多いようですが、フローライトにはさらに蛍光や変色などの光学効果を持つものがよく見られます。

 

【蛍光性】

フローライトの中には、エネルギーの高い紫外線等を当てると、通常状態と異なる色を発するものがあります。

このような特殊な発光は、最初にフローライトで発見されており、「蛍光性 Fluorescence(フローレッセンス)」という言葉は、フローライトに由来しています。

鉱物が蛍光色を発する要因については、内包される微量元素によるものか、あるいは結晶の原子組成上の何らかの欠落等によるのではないかと考えられています。

なお、紫外線等の光を取り除くと直ちに発光が止まるものを「蛍光」、その後もしばらく発光が続くものを「燐光 phosphorescence(フォスフォレッセンス)」と区別しています。

手持ちのフローライトにブラックライトで紫外線を当てて確認したのですが、残念ながら蛍光性を持った石はありませんでした。

 

【変色性】

フローライトには、照明の種類によって色が変わる「変色性」を持つものも多く見られます。

変色性のある宝石と言えば、「宝石の王」とも呼ばれる稀少石アレキサンドライトが有名ですが、「カラーチェンジフローライト」ははるかに手頃な価格で入手できます。

手持ちのものは、LED昼色灯の下では落ち着いたブルーに、白熱球の光を当てるとピンクっぽい藤色にと、はっきり色を変えました。

 

このような発色の違いは、照明の「色温度」によります。

物質を加熱した時、低い温度のうちは燃える炭のように赤く、高温になるに従って都市ガスの炎のように青く光ります(黒体放射)。

光の色の違いを、上記の黒体放射の絶対温度で表したものが「色温度」です。
日中の太陽光はおよそ50006500度(ほぼ表面温度に等しい)で、白熱球やロウソクの灯は3000度くらいとなります。

 

【変色効果の苦悩(脱線)】

最近の照明はLED化が進んでおり、大抵は昼光色や昼白色の色温度の高いものを使っているようです。

このことが、宝石の変色(カラーチェンジ)を楽しむ妨げになっています。

昔の生活であれば、日中は太陽光、夜になればロウソクの光といった具合で、アレキサンドライトも昼夜で劇的な変貌を見せていたものと思います。

「昼のエメラルド」「夜のルビー」などと称されたのもそういった背景があるのでしょう。

ところが現代では、日中の陽光も、夜の照明も、あまり色温度は変わらないため、自然に変色効果を発揮する場がありません。

アレキを筆頭に、カラーチェンジストーンは大人気ですが、その効果を楽しめるシチュエーションが実はあまりないということは、頭に入れておいた方がいいと思います。

 

なお、この状況を変える一案としては、太陽光の色温度を下げてしまうことが考えられます。

太陽は表面温度約6000度の黄色い主系列星ですが、赤色巨星や赤色矮星であれば、表面温度は3000度程度に下がります。

こうした星系に移住すれば、日中屋外では色温度が低いので宝石は赤く見え、夜間室内では色温度の高いLED照明で青緑に輝いてくれるでしょう。

「昼のルビー」「夜のエメラルド」となって昔と逆になってしまいますが、発想の転換としては悪くないかと思います。

赤い星でぱっと思いつくのはオリオン座のベテルギウスですが、ここは近い将来爆発が想定されているのが難点です。もっと近場の蠍座のアンタレスあたりがちょうどいい候補になるかと思います。

仕事の兼ね合い等もあるので、誰にでもお勧めできるわけではありませんが、もし具体的に検討される場合は、最寄りの宇宙植民局にでもご相談いただければと存じます。

フローライトは傷つきやすく、壊れやすいですが、数々の優れた特性を持った美しい石です。

ルースをコレクションしてもいいですし、フローライトが直接物にぶつからないように、両面がガラスになったロケットペンダントに入れて持ち歩くなどの工夫も考えられるかと思います。

 

 

【本日のお散歩】

今朝は急に寒くなりましたね。

早朝はまだ寒そうだったので、いつもより遅らせて8時過ぎに散歩に出ました。ルビーは今季初のセーター着用です。

あいにく雨が降り続いているので、傘をさして近所を一巡りしてきました。