『トルマリン』
(宝石日誌第50、51回 (2022年10月22、23日)より)
【宝石界最高のダイバーシティ】
トルマリン (tourmaline) は、珪酸塩鉱物のスーパーグループ(大きなまとまり)の総称です。
ガーネットなどと同じく特徴の共通する鉱物のグループですが、5分類13種類と分布の幅が広く、ほとんど全ての色調を持つ鉱物界で最もカラーバリエーション豊かな宝石です。
名前の由来ははっきりしませんが、スリランカの言語でイエロージルコンを示す言葉を誤って使ったものが定着したという説が有力です。
結晶を熱すると電気を帯びることから、電気石と呼ばれています。
モース硬度は7〜7.5と十分な硬さを持ち、劈開性もなく扱いやすい石です。
【5つの大分類】
1.エルバイト(Elbaite)
宝石質のトルマリンの多くがエルバイトに属します。イタリアのエルバ島で産出されたことから命名されました
ナトリウムとリチウムが豊富に含まれ、含有する微量元素によって多彩な色を呈します。
(例)
鉄、チタン・・ブルー、グリーン
マンガン・・・レッド、ピンク、イエロー
銅・・・・・・ネオンブルー
クロム・・・・エメラルドグリーン
2.リディコタイト(Liddicoatite)
エルバイトの次に多く出回っています。
エルバイトのナトリウムの代わりにカルシウムが豊富に含まれます。
GIA(米国宝石学会)の元会長兼社長のリディコート博士にちなんで名付けられました。
3.ドラバイト(Dravite)
マグネシウムを含むトルマリンで、琥珀色から濃い茶色、黒色を呈します。
スロヴェニアのドラウ河(Dobrova)から命名されました。
クロムを含有して鮮やかな緑色を示すものは、クロムトルマリンとも呼ばれます。
4.ウバイト(灰電気石)
カルシウムとマグネシウム元素が多く含まれるトルマリンです。スリランカのウバ地方で発見されたことから命名されました。
褐色系の深い色合いのものが多く、鉄の含有量によって色の濃さが変わり、鉄分が多いとブラックに近い色に、少ないものはグリーン系の色になるそうです。
5.ショール(Schorl)
大量の鉄を含み、漆黒色で透明感がないことから宝石としてはまず使われません。
そのため、”不用な鉱物”という意味のショールという言葉から命名されたという説がありますが、定かではありません。
(※近年の研究では、成分等に基づき、大区分をエルバイト、ドラバイト、ショールの3つに再整理する動きがあるようですが、ここでは宝石界の現行整理に準拠します)
このように多様な鉱物で構成されるトルマリンですが、標準的な宝石鑑別方法では一つひとつ種類を特定することは困難なため、宝石名としては、色名や地名、特徴等を冠して○○○トルマリンと呼ぶことが一般的です。
例えばパライバトルマリンの場合は、大半がエルバイトに属し、モザンビーク産の一部がリディコタイトに分類されますが、宝石名はパライバトルマリンで統一されています。
以下、主として色別の分類に沿って、各種トルマリンをご紹介します。
(寒色系〜暖色系)
【グリーントルマリン】
薄緑から深緑まで、幅広い緑の発色が美しく、赤と並んでトルマリンの代表的な色の一つです。フランス語風にヴェルデライトと呼ばれることもあるそうです。
緑の発色要因は鉄元素です。



通常低温加熱を繰り返して透明度の改善を行ったものが市場に出されます。この点は他のトルマリンも同様です。
【クロムトルマリン】
クロムを含有したトルマリンをクロムトルマリンと呼びます。
多くは緑色で、発色要因はクロムかバナジウム、またはその両方と考えられています。グリーントルマリンよりも彩度が高く、エメラルドに似た深い色合いのものが多いようです。
バナジウムを含むためか、一部に変色性のあるものも見られるそうです。

【ブルートルマリン】
アクアマリンのような薄い水色から、緑を帯びたブルーグリーンや深い藍色まで、多彩な青が見られます。
中には、銅を含んでいないのに、パライバトルマリンそっくりの発色を見せるものもあります。

【インディコライトトルマリン】
ブルー系の中でも、特に濃いブルーからブルーグリーンの発色のものを、インディコライトトルマリンと呼びます。

見る方向によって異なる色合いに見える「多色性」が強く現れることが多く、その場合結晶の縦方向から見ると黒に近い深い青、他の方向からはもう少し明るい青に見えるなどの効果が現れます。
【アクロアイト】
カラーレスのトルマリンで、名称はギリシャ語で無色を表す「akhroos」から取られたとされます。ホワイトトルマリンとも呼ばれます。
産出量はあまり多くないようです。
【レッドトルマリン】
主にマンガンの含有によって、濃いピンク〜赤を呈するものをレッドトルマリンと呼びます。
トルマリンの中でも流通量が少なく、市場価値ではパライバトルマリン、インディコライトトルマリンに次ぎます。色としてはコケモモ(クランベリー)の明るい赤が最上とされています。

市場で多く見られるのはピンク味を帯びた赤で、ルビーのような鮮やかな赤は稀少です。
レッドトルマリンの中でも特に、赤に近いピンクから明るい赤までの範囲のものを、赤を表すラテン語から取った「ルベライトトルマリン」という別名で呼ぶこともあります(ルビーと同じ語源ですね)。
このルベライトトルマリンという別名は、正式な宝石名ではなく商業名に当たります。
なお、宝石業者によっては、ルベライトトルマリンをレッドトルマリンの一部を指すものではなく、レッドトルマリン全てを表す別名(レッドトルマリン=ルベライトトルマリン)だとしている場合もありますので、名前の使われ方には若干注意が必要です。
ルビーのような赤は稀少とは言うものの、過去にはルビーと間違われた有名な石もあります。
一つは、ロシア ロマノフ王朝の家宝とされたいちごの彫刻です。重さ260カラット以上もあり、世界最大のレッドトルマリンですが、長らくルビーだと思われてきました。

もう一つは、チェコ王室の王冠です。14世紀後半の作で、金の王冠に大きなブルーサファイアとレッドトルマリンがはめ込まれています。こちらも同様にルビーと誤認されていました。

【ピンクトルマリン】
明るいピンクのトルマリンをピンクトルマリンと呼びます。
レッドトルマリンとの違いはピンクの濃淡で、薄いピンクのものがピンクトルマリン、濃いピンク〜レッドがレッドトルマリンです。

【イエロートルマリン】
黄色のトルマリンです。
ごく微量のマンガンが働いて、黄色や褐色に発色すると考えられていますが、これに限らずトルマリンの発色要因はまだよくわかっていないというのが実情のようです。

余談ですが、店頭などでイエロートルマリンと表記されたラベルを見かけると、ビートルズのとある曲を口ずさみたくなります。
【ブラウントルマリン】
茶色のトルマリンです。
発色要因はイエロートルマリンと同じく、微量のマンガンによるものと考えられています(よくはわかっていないのも同じ)。
【カナリートルマリン】
カナリアのような鮮やかなイエローのものをカナリートルマリンという商業名で呼ぶことがあります。
微量のマンガンに、さらにごく微量のチタンが加わっており、かつ鉄がほとんどない場合にこのような色を呈すると推測されています。

少しグリーンを帯びた鮮やかなイエローが最も高く評価されるようで、その点は少しパロットクリソベリルのイメージに似ています。
【バイカラートルマリン】
一石に2つの色が入っているものをバイカラートルマリンと呼びます。

トルマリンの場合、原石の結晶の段階で色が分かれていることがわかるそうです。
結晶が成長している途中で、取り込まれる微量元素の構成が変わったために色が変わったものと思われます。
色がくっきり分かれているものから、ほんのりと色が混じっているものまで、グラデーションの出方には幅があります。
【ウォーターメロントルマリン】
バイカラーの一種で、結晶の中心が赤色で、その周りを緑色で取り囲んでいるものをウォーターメロントルマリンと呼びます。

秀逸なネーミングです。本当にスイカを連想させて、宝石なのになんだか美味しそうに見えます。
まだ見たことはないのですが、通常と逆に、結晶の中心が緑色で、外側がピンクのものは、リバース・ウォーターメロンと呼ばれるそうで、遊び心を感じます。
【余談 「宝石の国」】
市原春子の人気漫画「宝石の国」は、人の形をした宝石たちの物語です。
概ね宝石としての硬度、靭性(強度)が戦闘力に比例するとされています。
トルマリンは硬度も高めで、劈開性もなく、そのうえ宝石の中で最も色相が豊かなグループであるにもかかわらず「宝石の国」に登場するのは、ウォーターメロントルマリンただ一人です。
考えてみると、スピネルとガーネットも、硬度や靭性のレベルが高く、色相も逸話も豊富なのに、一人も登場していません。
想像するに、これといった欠点がなく、安定した実力を持っているより、どこか尖ったところがあったり、一芸に秀でていたりするキャラの方が、お話に絡めやすいといったことが背景にあるのかもしれません。
【終わりに】
トルマリンは宝石として扱いやすく、カラーバリエーションは宝石の中でも随一です。
私の一推しはパライバトルマリンですが、他にも色彩が印象的で、かつ比較的求めやすい価格のものもたくさんあります。
ぜひ様々なトルマリンをみて、できれば推しの一石を発見してください。
【本日のお散歩】
朝から晴れています。
ルビーにセーターを着せましたが、不要なくらい暖かかったです。
先々週くらいから、玄関先でキンモクセイが咲いています。
香りはそれほど感じません。子供の頃の記憶では、もっと香りが強かった気がしますが、木の個体差もあるかもしれませんし、もしかしたら温暖化の影響かもしれません。
あるいは自分の嗅覚が鈍ったことの現れということも・・・。

