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『パライバトルマリン』 

宝石日誌第4849回 (2022102021日)より)

トルマリン(電気石)の中で、銅を含有して青〜緑を発色するものを、最初に発見された地名から「パライバトルマリン」と呼びならわしています。
私の一押し石の一つです。

1989年に市場に出た新しい石ですが、従来にない輝く青は「ネオンブルー」「エレクトリックブルー」等と呼ばれてたちまち人気を集め、世界三大稀少石の一つと位置付けられるまでになりました。 (残る2つはアレキサンドライトとパパラチャ(サファイア)です)

 

【パライバトルマリンの登場劇】

鉱石としてのパライバトルマリンの発見は1982年に遡ります。

ブラジルの大西洋に面したパライバ州のバターリャ(Batalha)の丘で、エイトル・ディマス・バルボッサ氏が、見たことのない鮮やかな青色の石を発見しました。

この最初のパライバトルマリンは、色はともかく、宝石としての品質は高くありませんでした。そこでエイトル氏が周辺の土地を根気よく探索した結果、1988年に透明度の高い宝石質の原石が発見されました。

この原石からカットした石を、最初にブラジル国内で販売したところ、あまりに彩度の高い青色のため、天然石ではないのではと疑われ、全く売れなかったという逸話が残っています。


その後、正式にGIA(米国宝石学会)にて鑑別を取り、1989年に「ツーソンジェムショー」に出品しました。

ショーの初めには1ct当たり80ドルで値付けしていたものが、数日間で2,000ドルに跳ね上がるという伝説が生まれたのがこのときです。
早くもこの時点で、パライバトルマリンは、世界的な人気を不動のものとしました。

人気の高さに対して、バターリャ鉱山の産出量が数年で激減したこともあって供給は少なく、人気も価格もずっと高止まりが続いています。

 

【石の色は移りにけりな】

パライバトルマリンは、産出年代によって販売される石の色が変わってきたようです。

 

◯第一世代  オールドマイン・鮮やかなネオンブルー
  
(登場時〜2000年台初め頃まで)

パライバトルマリンの登場時、過去に例のない鮮烈で彩度の高い青が、宝石好きの心を掴みました。
この頃の石はあまり緑の入らないものが多く、ブルートパーズを思わせるしっかりした青が主流だったようです。

青の濃いこの時代の石は、現在ほとんど市場に出ておらず、過去の在庫や還流品が店頭に並ぶときは「エイトル氏の見た初期の石と同じ色」ということで、非公式ながら「エイトリータ」と称して売られることが多いようです。

手持ちでは一品だけ、青の強いブラジル産のパライバトルマリンがあります。オールドマインの色と思い、気に入っています。

 

この頃に出版された宝石の本で、パライバトルマリンのページを見ると、出てくる石全てが、今ではほとんど見かける機会がない濃青色であることに驚かされます。

 

◯第ニ世代  現在の主流・明るいブルーグリーン
  
2000年台中頃〜現在まで)

2000年代に入って、新たにアフリカのナイジェリアとモザンビークで、相次いで銅を含んだ青いトルマリンが産出しました。
パライバはブラジルの州名ですが、アフリカ産のものも、既に名の通った「パライバトルマリン」の名称で売り出されます。

この名称使用可否問題については、宝石業界全体の問題として世界の業界団体間で協議を行い、若干の改訂を経て、「銅を含有する青から緑のトルマリン」については産出地を問わず「パライバトルマリン」と呼ぶことが決まっています。

アフリカ産のパライバトルマリンは、当初こそ濃青色の石も産出したのですが、すぐに底をついてしまい、以降採掘されるものの大半は、緑色が強く出た薄い青になりました。
ブラジル産についても、初期の「エイトリータ」と呼ばれるような濃青色の石は枯渇し、より青が薄いものを市場に出さざるを得なくなっていました。

おそらくこの前後から、パライバトルマリンの代表的な色のイメージが、濃青色からブルーグリーンの明るい色合いのものに切り替わってきたのだろうと思います。

 

最近の広告で、パライバトルマリンを使ったジュエリーをときどき見かけますが、ハイブランドの1億円を超えるような品であっても、使われている石の色はやはり、明るいブルーグリーンのようです。

 

 

【カワセミブルー】

オールドマインのパライバトルマリンの鮮やかな青は、カワセミ(翡翠)の羽根の色に似ていると思います。

カワセミの羽根は構造色で、他で見当たらないような、わずかに緑がかった硬質な青を、内側から光っているような輝きを秘めて発色します。
花の咲いた桜の木にとまる姿は一服の絵画のような美しさです

※鳥造さんTwitterhttps://twitter.com/toraorat/status/1642729007685988352?s=20)から引用

 

なお、宝玉のヒスイ(翡翠)は、カワセミと漢字が同じですが、これはカワセミの羽根の色に似ていることから同じ漢字が当てられたものです。

色で見るとヒスイよりもパライバトルマリンの方が、カワセミの羽根の複雑な青さと、やや金属的な輝きを連想させて、より似ていると思います。

カワセミをモチーフにして、パライバトルマリンにオレンジと黒の石を組み合わせてアクセサリーを作るのも面白いかもしれません。

 

【どうして貴方は青なのか】

パライバトルマリンの独特な青は、微量の銅元素によるものとされています。透明度の高い「宝石」の中で、銅による発色が認められたのは、パライバトルマリンが初めてです。

トルマリンは、多くの宝石と同様にその大半がペグマタイトと呼ばれるマグマが冷えて固まった石の中で見つかります。

ペグマタイトは地殻の比較的浅い場所で生成され、内部の空洞で宝石の結晶が成長していく過程で、様々な微量元素も取り込まれます。

 

少し大きな話になるのですが、地球の中に存在する元素は、大きく「親石元素」と「親銅元素」に分けられます。

「親石元素」は、地下1,200kmまでの深さの岩石や上層マントル内に分布しており、通常ペグマタイトに取り込まれるのはこちらの元素です。

しかし銅をはじめとする親銅元素は、さらに深い2,900kmまでのマントル液相に分布しています。

このため、ペグマタイトで形成された結晶が銅を含むことはほとんどありません。

 

以前レッドベリルについて触れた際に、ベリルの結晶が、地理的に離れていたはずのマンガンにさらされたのは、大陸移動に伴う造山活動があったためではないかと書きました。

両者が出会うには水平距離を何千kmも移動することが必要でしたが、いずれも「親石元素」ですので、分布域の深さは同等でした。

 

これに対して、トルマリンと銅が出合うためには、地球内部を垂直方向に1,000kmほど移動する必要があります。

何らかの地質学的イベントがあったことは確かですが、それがどのようなものであったかは、まだ推測がついていないようです。

 

なお、パライバ州のあるブラジルの西海岸と、ナイジェリアがあるアフリカ東海岸は、かつてアフリカ大陸と南アメリカ大陸が別々に分かれる前は、かなり近い位置関係にありました。(地図上で両大陸の端と端を合わせてみてください)

そのため、銅の元素が地殻近くまで噴き上がる現象は、その地域での1回限りの現象かもしれないと思われた時期があったそうです。

 

しかし、後にモザンビークでもパライバトルマリンが発見されました。

モザンビークはアフリカの西海岸に近い方にあり、ナイジェリアからも遠く離れています。このことから、パライバトルマリンを産む原因となったイベントは、過去に少なくとも2か所以上で起きていたと考えられます。

そう考えていくと、別の大陸でもパライバトルマリンを産出する可能性があるわけで、未来の発見にも希望が持てるかもしれません。

 

【産地鑑別】

パライバトルマリンは、ブラジル産のものの方がアフリカ産よりも青が鮮やかで高品質であると言われており、市場でもブラジル産のもの、とりわけ最初に発見されたバターリャ鉱山のものに高値がつきます。

こうした状況を受けて、世界で最も権威がある鑑別機関のGIA(米国宝石学会)は、カラーストーンの産地鑑別に必要なデータを十数年かけて収集し、最近になって宝石鑑別書への産地鑑別サービスを開始しました。

そもそも産地鑑別が不可能な石も多く、商業的な必要性も関わってくることから、一部の宝石に限られており、また石によっては識別できるのは国単位といったざっくりした広域になることもありますが、パライバトルマリンについて、ブラジル産かモザンビーク産かといったことは、GIAに依頼すれば鑑別書に明記されるようになりました。

手持ちで4つほど産地のわかっている石があるので、ご参考に写真を載せます。

・(再掲)ブラジル産オールドマイン オーバル型ルース (ニミットジェムスさんで購入)

 


・ブラジル バターリャ産 ルース(デザイン工房AmESさんで購入)

 

・ブラジル バターリャ産ペンダント(山梨 K.Y.ファクトリー製を中古で入手)

 

・モザンビーク産ルース(優美堂さんで購入)

 

 

【どんな名前で呼ぼうとも】

ネットオークションなどを見ていると、
「パライバトルマリンを購入したのに、鑑別機関で検査すると銅の含有がないことがわかった」
という事例をときどき見かけます。

興味を惹かれたので、そのうち一つを買ってみました。

当初購入した店(アメリカの通販店だそうです)のスペックシートを写真下側に載せていますが、これには
 「Paraiba Tour.   ・・(0.67ct)
と明記されています。

一方、日本の鑑別機関で取り直したソーティングメモには
「天然トルマリン ・・(0.675ct)

と書かれており、パライバトルマリンではなかったことがわかります。

 

同じ鑑別機関の例ですが、パライバトルマリンだと鑑定されると、その旨が明記され、X線検査による銅の含有確認結果が補記されます。

 

市場ではときに「パライバトルマリンとは認められないものの、パライバの色をしたトルマリン」が売られています。

そういった「パライバカラーのブルーグリーントルマリン」の例を2つほど添付します(つい買ってしまいました)。

 

なお、ハリーウィンストンのようなハイブランドでも、高価なパライバトルマリンの代わりに、同じ色の普通のトルマリンを使ったジュエリーを売り出すことがあるようです。

写真は新聞の広告誌に掲載されていた1,650万円のクォーツ時計です。
メレダイアモンドこそふんだんに使っていますが、主石は0.8ctの「パライバカラートルマリン」となっています。

パライバトルマリンを調達できなかったはずはありませんので、ハリーウィンストンとしては、美しければ宝石名にはこだわらないというスタンスなのでしょう。ブランドとしての自信を感じさせて、個人的には好感がもてます。

 

【推しに会えたら】

パライバトルマリンは私の一推しの宝石の一つです。

輝くネオンカラーは、これからも人を惹きつけてやまないものと思います。


通常、ブランド宝石店では、品質は一級ながら小粒の石に、繊細な加工を加えて、高級ジュエリーに仕立てて販売しています。

そういう品ももちろん素晴らしいのですが、もし、ある種類の石が自分の一推しと感じた場合は、石をルース(裸石)探して、これはというものをゆっくり自分流にジュエリーに加工するというやり方も、満足感が高いのではないかと思います。

 

 

【本日のお散歩】

朝からいいお天気でした。
ルビーにセーターを着せて散歩へ。

気分を変えたかったのか、ルビーはいつもと違う方向に向かい、変則軌道をたどって街歩きした後に家に戻りました。

いつも決まったコースにせず、週何回かはルートを変えた方がボケ防止にいい、と聞きますので、ちょうど良かったようです。