『レッドベリル』
(宝石日誌第28回 (2022年9月28、29日)より)
(「レッドベリル(合成)」については、本記事の末尾から続きます)
エメラルド、アクアマリン、モルガナイトと同じベリル一家のその他のメンバーから、まずは私の偏愛する「レッドベリル」について、です。
<レッドベリル>
【赤い彗星】
レッドベリルは、21世紀近くになって市場に現れた宝石界のニューカマーです。
「レッドエメラルド」とも呼ばれており、ベリルにマンガンが内包されて、ちょうどエメラルドと対をなす印象的な赤色を呈するのが特徴です。

人類は古代からエメラルドを好んでおり、長い間地球のあちこちでその採掘を行ってきましたが、これまでに「赤いエメラルドが見つかった」という記録はありません。
それが20世紀になって初めて、アメリカのユタ州の鉱脈でその産出が確認されました。
当時そのユタ州の鉱山の権利を持っていたのが個人だったこともあり、なかなか本格的な採掘に至らなかったのですが、一時期リオ・ティント社が運営権を買い取り、結局また売却するなどの紆余曲折を経て、ジェムストーン・マニング社という企業が採掘権を買い取り、1999年から商業採掘が開始されました。
それまでコレクターストーンだったレッドベリルが売り出されたとき、その美しさと稀少性は話題となりました。
レッドベリルは、大粒の結晶となるのは稀で、加工後の平均重量は0.15カラット(0.03g)にとどまっています。
1カラット程度の大粒のものは相当高額になる上に、そもそも滅多に市場に出てきません。
憧れながらも手に触れることさえ難しい高嶺の花といった感じでしょうか。
【輝くもの天より落ち】
そもそもエメラルドが生成される条件が極めて厳しいものでしたが、レッドベリルはさらにその何倍も稀な存在のようです。
レッドベリルは火成岩である流紋岩の中から採掘されます。
流紋岩は火山灰が固まってできる岩です。
不思議なことに、流紋岩は通常、鉱石を含むことがありません。ときにトパーズやガーネットが見つかることはあったようですが、エメラルドなどベリルの鉱物が見つかった記録などはありません。
そんな中で、どのようにレッドベリルが生成されたか、そのプロセスには謎が残ります。
おそらく、太古の火山活動の際に、火山灰と一緒に噴き上げられたベリルの成分を含むマグマが一緒に冷えていき、流紋岩の中にベリルが生成されることがあったのでしょう。あるいは既にある流紋岩の裂け目などに、新たな噴火でマグマが入り込んで、結晶化したのかもしれません。
そして、偶然そのときに、マンガンを含む火山ガスか熱水蒸気が結晶化中の石に到達したことから、地球上でこの場所だけに、レッドベリルが誕生したのではないかと思います。
その確率を考えるに、今の鉱脈が枯渇したら、残念ですが、再びレッドベリルを発見できる可能性は低いでしょう。
レッドベリルはおそらく、人類の歴史の中でたった一度、ここ数十年の間だけ現れた奇跡のような石で、いずれ姿を消して、天に帰ってしまう運命なのだと思います。
では、今あるレッドベリルは、一体「いつ頃まで採掘ができるのか、埋蔵量の見通し等について、個人的意見を混ぜてお話しします。
【採掘の限界】
レッドベリルは世界中でただ一か所、アメリカユタ州の鉱脈でしか見つかっていません。
どのくらいまで採掘が可能なのか、レアストーンを販売する宝石店の人に聞くと、大抵は、
「既に枯渇した/枯渇しそう」
「もう採掘は行われていない」(これから一層稀少性が高まる)
と言われます。
販売する立場からすると当然の発言ではあります。
埋蔵量の見込みについて、明記された資料は見つけられていませんが、以下のような情報から、ある程度の推測を試みることはできそうです。
◯ファクト1(ネガティブ)
レッドベリルの鉱山は、大粒の石が出ないこともあって、細々と小規模な採掘が続けられていましたが、ようやく1990年代に入って、英豪主体の多国籍企業リオ・ティント社が鉱山の権利を取得しました。
同社はオーストラリアに有名なアーガイル鉱山を所有しており、そこでは世界のレッドダイアモンドの90%以上を算出しています。
おそらく当初の戦略として、レッドベリルの採掘を本格化し、
「ダイアとベリル 紅の天女たちの競演」
みたいなプロモーションを打つことを考えていたのかもしれません。
しかしながら、結局同社は、本格採掘を開始することなく、ユタ州の鉱山の権利を手放しました。
大が2つつくような大企業ですので、商業ベースで採算ラインに乗らないと見極め、企業判断として速やかな撤退を図ったものと思われます。
◯ファクト2(ポジティブ)
リオ・ティントの後にユタ州の鉱山の権利を買ったジェムストーン・マニング社は、1990年代末に鉱山の評価を行い、以後20年間で、2万5千カラット程度のレッドベリルの採掘を見込めると判断しています。
同社としては、50〜100年の長期にわたって市場への供給を続けられるだろうとの見込みのもと、レッドベリル採掘事業を開始したもののようです。
◯ナラティブ1(真偽不明)
これまで見てきたお店の中で、なかなかレッドベリルの品揃えが豊富だった店で、インド人宝石商のラナシンハ(仮名)さんと、以下のような会話をしました。
ラ:「私、アメリカに伯父がいるんですが、実はレッドベリルの流通は、その伯父が仕切ってるんです」
さ:「え、それはすごいですね!」
ラ:「はい、伯父は質の良いレッドベリルの原石をひと樽ほど所有していて、そこから毎年何キロ分かを切り出して、マーケットに出しています。私の店にもそこから回してもらってます」
さ:「いやすごいですね。手堅そう。
笛を吹いて『レッドベリル カモーン!』と叫んだら空中から出てくるみたいなもんですね」
ラ:「?」
(この後、1カラット近い真っ赤でクリアなレッドベリルを勧められました。円安調整前の入荷だから特別値引きで100万円にするよ、と言われて心がぐらつきましたが、こらえてその場を離れました。正直言って次に同じことを言われたらヤバいです)
情報の真偽は不明ながら、常時採掘を行うのではなく、ある程度ストックが溜まったら採掘を停止し、値崩れしないよう市場への供給をコントロールするという話には、なかなかのリアリティがあります。
過去にダイアモンドにおいて、19世紀後半から20世紀にかけて、アフリカなどで新しい鉱山が次々に稼働し、大幅な値崩れ基調が予想された時期がありました。
このときはデビアス社が、自社を中心に中央販売機構というカルテル会社を作ってダイアの流通の90%以上を手中に収めて価格決定権を握り、巧みな広告戦略(ダイアモンドは永遠の・・・云々)と併せて、巨大な利益を生み出す構造を作り上げました。
レッドベリルの場合は、ダイアと違って埋蔵量の少なさの方が問題となっているわけですが、あえて供給を絞って稀少感を出すというのはいずれの場合にも適用できて、理にかなっていると言えます。
◯ファクト3(ニュートラル)
上記のジェムストーン・マニング社ですが、どうやら既に倒産しているようです(リオ・ティント社は結局正しかったのですね)。
英米には、破綻会社(ランオフカンパニー)の事業を安値で買い取り、再投資して事業を立て直し、企業価値が十分高まったところで売却するという投資会社があります。
どうやらマニング社の採掘事業は、そういった会社が買い取ったようで、社名もそのものズバリの「Red Beryl mining company」(レッドベリル採掘会社)という会社が、2021年に採掘事業を引き継いで、事業再開を図っているようです。

ホームページを見ても詳細な情報は載っていないのですが、20年近くの間あまり稼働していなかったレッドベリル採掘事業を、新たな技術の導入等により、効率的・円滑に進めることを目指します、といったことをうたっています。
同社のNewsletterを送ってもらうよう申し込んだので、今後何か情報が入ったらまた適宜ご報告します。
(2023.6.25追記:この時点でレターは1枚も来ていません)
【私見】
上記を踏まえた私の推測は以下の通りです。
・レッドベリルの供給が滞っていることはおそらく事実
・埋蔵量そのものは、今後数十年分はおそらく問題ない
・しかしながら、採掘がマンパワー頼み、かつ品質が不安定で大粒の石が少ない等の条件から、商業的に採算に乗せることが難しい。今後供給が安定するかどうかは、新会社の手腕次第
・従って当分の間は品薄と価格の高止まりが続きそう
【マーケットの状況】
コロナ禍の影響で、鉱山での採掘も輸出の手順も滞っていることから、今市場に出ているのは、国内の過去のストック分を放出しているものが大半のようです。
いろいろミネラルショーや通販、ネットオークションも見ているのですが、レッドベリルの新規の出物は本当に少ないです。
(追記 :2023/2/17 2023 年1月からのアメリカツーソンミネラルショーで買い入れられたレッドベリルが、再び市場に並び始めたようです。ただし、見る限り価格は昨年より上がっています)
このところの円高と、今後のインフレ予想を踏まえた先高感から、レッドベリルの価格は再び上昇し始めているようです。
なお、レッドベリルについては、稀少性のためか、品質に少々問題のある石も出回っているように感じられます。
鮮やかな赤が減って、ピンクがかった色の薄いものがかなりの割合を占めています。

私は赤い宝石の中では、ルビーやガーネットよりも、レッドベリルが一番好きです。
質の良いレッドベリルは、まるで魔法でエメラルドの質感をそのままに、色だけを変えたような鮮やかな赤で、濡れたようにしっとりとした光沢を持っています。他の宝石にないその美しさには、心を奪われるものがあります。
もしかしたら、良質なレッドベリルを入手できる、今が最後のタイミングかもしれない・・・なんてことを考えて、財布の紐を緩めてしまうあたり、私もかなりレッドベリルへの偏愛が強いようです。

【本日のお散歩】
やはり夏の逆襲なのか、暑さを感じる日になりました。クーラーを入れようかと迷うくらいです。
とはいえ朝夕は涼しくて、悪くない気候です。ルビーのパトロールもおかげで順調でした。


(宝石日誌第178回 (2023年6月25日)より)
以前仕入れていた工場合成のレッドベリルを、

エメラルド、アクアマリン、
わたしの好きな宝石です。
前述のとおり、発見されたのは20世紀で、アメリカ ユタ州の鉱山が唯一の産出地です。
ベリルに十分な量のマンガンが内包されることで印象的な赤色を呈
大粒の結晶となるのは稀で、また、出回る石は色の薄いものも多く、
今回指輪にしたレッドベリルは、
1.64ctと大粒で、縦横約8×
合成石だけあって内包物がなく、光が通って透明感があります。
合成とはいえ、成分も構造も、

ベリルの結晶ができるとき、岩の中に十分な隙間があって、
最近は、
合成石の頂点はなんといってもシリコン・カーバイドの単結晶モアッサナイトですが、20世紀のまだ不完全な人造石のYAGなどが最近の好みです。
【映画鑑賞】 「M3GAN(ミーガン)」
AI人形が不気味可愛いと評判のホラー映画、ミーガンを観てきました。

脚本と演出がとてもしっかりと組み立てられている印象で、いよいよミーガン登場、となる前に、世界観や登場人物たちの印象もくっきりと掴めます。
結局はホラー展開になるわけですが、ここまでしっかりと積み上げた上でなら、ロボットと心通う感動作にも、AIの進化に驚嘆するセンスオブワンダー作品にでも、いかようにも料理できそうだと思いました。
実のところホラー成分は弱めで、その点が評価を二分しているようです。
私としてはお勧めです。
今更殺人ロボットの恐怖を執拗に描いても、ターミネーターを超えるのは無理でしょうし、ありきたりという感想になります。心理サスペンスに力点を置くのは正解でしょう。
個人的にこの作品を見て、J.P.ホーガンの「未来の二つの顔」という小説を思い出しました。
AIの進化が人間の理解を超えたときに、何が生まれ、人はそれにどう向き合っていくのか。
ホーガンの描いたスパルタクスと映画のミーガンは、違っているようで似てもいて、まさに未来の「二つの顔」の代表だと感じました。
【散歩とか】
最近は日が昇るとすぐに暑くなり、午前中からクーラーが活躍します。
ルビーとの朝散歩は涼しいうち、できるだけ早い時間に出るようにしています。



クチナシ(ガーデニア)の花が終わって、アガパンサスがそこかしこで咲き始めています。


梅雨の実感があまりないうちに、空気はもう夏の気配です。