『エメラルド』
(宝石日誌第27回 (2022年9月26日)より)
エメラルドは、独立した鉱物ではなく、とても豊富なカラーバリエーションを持つ「ベリル」の結晶の一つです。
【ベリル・ファミリー】
ベリルは和名を「緑柱石」といい、ベリリウムを含んだ六角柱状の鉱物を指します。
ベリリウムは元素記号の4番目(水兵リーベの「べ」)の軽い元素で、その名前自体、最初にベリルから分離されて発見されたことに由来しています。
なお、和名の「緑柱石」は、元々エメラルドを意味しており、緑のエメラルドが、ベリル系の宝石の中で最も有名であり、代表選手であるということがわかります。
ベリルのモース硬度は7.5と硬く、衝撃による割れやすさ(劈開性)もありません。宝石として高い基本性能を有していると言えます。
大地に眠るベリルの結晶の中で、透明で美しいものだけが、人間の手でカットされて宝石になります。
微量元素によって様々な色を発し、エメラルドの他、薄青のアクアマリンやピンクのモルガナイトも同じベリルの仲間です。
ベリルは、微量のクロムを含むことにより、美しい緑色を発色し、エメラルドと呼ばれるようになります。


ルビーが赤く見えるのも、アレキサンドライトが照明によって色が変わって見えるのもクロムの影響です。石によって異なる発色を見せるのが興味深いところです。
エメラルドの輝き方は他の多くの宝石と少し違っています。
屈折率等はあまり高くなく、ダイアモンドのように光を何回も屈折させ、かつ内部で散乱させてキラキラきらめくことはありません。当てられた光の大半は、表面で反射してしまいます。
ただそのときに、この宝石特有の濡れたような質感のガラス光沢を見せます。
「きらめく」というより「輝く」宝石だと言えます。
エメラルドは内包物の多い宝石なのですが、少量の内包物であれば、その価値を損なうことはないとされています。
(とはいえ、高値のついた「ノンオイル」、あるいはさらにレア度の高い「ノントリート」のエメラルドで、内包物もヒビもない、どこまでもクリアで輝く緑色を見てしまうと、「エメラルドって、本当はこんなに明るいやつだったんだ・・・」という気分になりますが。)

【大陸移動とエメラルドの成り立ち】
微量元素のクロムによって、ベリルは緑色に染まると言いましたが、実はそれは簡単なことではありません。
ベリルの元となるベリリウムとクロムは、ともに地球上での産出量が極めて少ない稀少物質であり、さらにそれぞれがある程度の濃度で含まれる場所は、海を越えて遠く隔たっていました。
本来であれば、これら二つの元素がいずれも一定以上含まれるようなところは、地球が終末を迎えるまで存在することはなかったでしょう。
二つの元素が混ざり合う事態を引き起こしたのは、「大陸移動」です。
なんか壮大な話になりましたが、事実です。
私たちが住む大地は、数々の大陸プレートに分かれています。これらプレートは、ドロドロのマントルの上に浮かんでおり、マントルが地中深くの熱によって対流するのに合わせて、ゆっくりながら圧倒的な力を背景に動いています。
プレート・テクトニクスと呼ばれる現象です。
2つのプレートがぶつかり合い、衝突のエネルギーで山脈が隆起してくることがあります。
山脈が形成される造山活動の熱や圧力のもと、ベリルの結晶が時間をかけて形作られていくさなかに、別のプレートに由来するクロムを含んだ水が地下深くで圧縮され、熱水として地中を上昇していき、形成中のベリルの結晶に浸透したとき、初めてエメラルドが誕生する条件が整います。
地球史数十億年の中でも、地理的・時間的に極めて稀な現象が起きた特定の場所でのみ、我々はエメラルドを見つけることができます。
宝石の中には、地層に多く含まれる長石、水晶やマグマに大量に含まれる単結晶のペリドットやダイアモンドのように、自然状態で豊富に存在するものもありますが、エメラルドは極めて稀少です。
もし枯渇した場合、少なくとも数億年にわたって、新たに生成する条件が整うこともないでしょう。
そう考えてみると、今目の前に緑のエメラルドを見ることができるのは、途方もない偶然の結果で、奇跡的なことなのだと実感できるように思います。
【古代からの輝き】
エメラルドは、ルビー、サファイアとともに古くから人々に愛された「三大宝石」(※)の一つです。
(※ ダイアモンドを含め四大宝石とも)
クレオパトラが、真珠とともにエメラルドをこよなく愛したと伝わっており、エジプトには当時の鉱山跡もあるそうです。
ダイアモンドは、近世になって、内部での光の反射を最大にする「ブリリアントカット」の技法が開発されて初めて、100%の実力を発揮できるようになりました。
古代のダイアモンドは、今のようなきらめきには恵まれず、ただ透明で、驚くほどに硬い石という位置付けだったものと考えられます。
その点エメラルドは、比較的カットの影響を受けにくいので、加工技術が未熟だった古代にも、今と変わらない美しさで輝いていたことでしょう。
【脆きもの汝の名は...】
エメラルドは、ベリルが偶然クロムを内包することで生まれた石ですが、その形成過程で必然的に他のあれこれの不純物も入り込んでしまうのが悩みの種です。
ベリルは本来硬く割れにくい鉱物なのですが、ことエメラルドについては、ヒビや内包物が多いため、衝撃に弱く脆いというやっかいな性質があります。
そのため、市場に出てくるエメラルドは、わずかな例外を除いて、オイルに浸してヒビを埋めたり、満遍なく輝くようにコーティングしたりといった強化処理(エンハンスメント)を行っています。
また、カットにも工夫があります。
全体を長方形にして衝撃が一箇所に集中しないようにするのとともに、欠けやすい四隅の角はあらかじめ落としておく「エメラルドカット」が施されることが多く、エメラルドといえばこのカットというイメージです。


写真を見ると、端が欠けていたり、内包物の影が見えたりしていることがおわかりいただけるかと思います。
一方で、次の石は、全体が均質に深めの緑色を示し、内包物による濁りも見られず、ヒビや欠けといった欠点もありません。

稀に自然状態でこのような石が見つかった場合は、加熱による色の均質化や、オイル塗布などによる強化処理の必要のない「非加熱・ノンオイル」の貴重な石として、高い価値を有するようになります。
ただし、写真のものは残念ながら天然石ではありません。
【真実は見えるか】
この石は、ネットオークションで、天然エメラルドという触れ込みのものを購入したのですが、値段の割に綺麗過ぎたので、そのうち鑑別に出して確認しようと思っていました。
ところが、先日中国の通販サイトをのぞいていたところ、サイズや見てくれから、同じ商品と思われる人工エメラルドが販売されていました。

どうやら中国で買って、日本のオークションに転売したものをつかまされてしまったようです。ちなみに値段は200円くらいでした ^_^;。
形やサイズを自由に選べて、エメラルド以外にも様々な色合いの宝石を同じパターンで揃えており、購買意欲がそそられます。
ただし、エメラルドとして売られているものはおそらく、成分が天然石と同じである「合成ベリル」ではなく、もっと簡単に安く製造できる「合成コランダム」や「合成スピネル」のグリーンバージョンではないかと思います。
先日ミネラルフェアで、本物の(というのも変ですが)合成エメラルドを入手しました。

安価ですが、化学組成は天然エメラルドと同じで、内包物やヒビのない合成エメラルドは美しく、宝石商の方の中にも隠れたファンがいるくらいです。
結局のところエメラルドの場合は、内包物によるくもりや、天然ゆえの色むらなども、その石の個性として楽しむような心持ちでいた方が、長く楽しく石と付き合えると思います。
【本日のお散歩】
今日はいい天気なのですが、気温も上がってしまって、なんだか夏が逆襲してきたような気がします。
涼しいうちにと思って、今朝も早めに散歩に出ました。
とはいえ、日が照って暑さを感じても、風は涼しく空気も爽快で、クーラー要らずで過ごせるのはありがたいです。

