『トパーズ』
(宝石日誌第19回 (2022年9月17日)より)
本日のお題は「トパーズ」です。
1.ブルートパーズ
まずトパーズの中でもとりわけ一般的な「ブルートパーズ」について。
個人的な実感ですが、ここ二十年くらいの間にジュエリーショップ等で見かけることが一番増えた宝石の一つではないかと思います。
【トパーズ色とは】
私が子どもだった頃は、トパーズといえば黄色から橙色の宝石というイメージでした。(※)
薄青色のトパーズが見つかることもあったようですが、非常に稀少で、市場に出回ることはほとんどなかったようです。
(※)余談ですが、江國香織の「冷静と情熱の間」という小説で、アメリカ人の夫が起き抜けの挨拶で妻に
「トパーズ色の朝だね!」
と声をかけるシーンがありました (結構大阪人には寒さを感じさせる描写でした)。
それがどこの宝石店でも見かけるポピュラーな石となったのは、放射線照射による変色処理が可能になったことによります。
【青の創造】
トパーズはほとんどが無色透明で産出されるのですが、無色の宝石としては既にダイアモンドが普及しており、販売できる市場がありません。
そのため無色のトパーズはそのまま捨てられていたのですが、1970年代頃から、放射線照射でトパーズの色を変える試みが始まりました。
最初のうちは失敗も多かったようで、良い色になったものを販売したら数年で色が抜けてしまったり、残留放射能が残った状態で店に出して当局の警告を受けたりといった事例があったようです。
やがて研究も進み、無色のトパーズについて、粒子加速器で電子線やγ線のビームにさらすと薄い青に、原子炉から出る重い中性子線をぶつけると濃い青に変色させられることがわかりました。
さらに熱を加えることで変色を制御、安定化する手法が確立し、無価値だった無色のトパーズをブルートパーズに変えて大量供給することが可能になりました。
この処理は商業的にも大きな成功を収め、今やブルートパーズの供給量は年間100トン超にも達しているそうです。
【ブルーの色合い】
ブルートパーズは、販売に際して、色の濃さに応じた3つの区分に分けられています。
◯スカイブルートパーズ
淡い青色をしたトパーズです。

スッキリとした薄い青が、晴れた日の空を連想させる(※)ことから『スカイブルー』と呼ばれるようになったと言われています。
アクアマリンに似た上品な色合いで、最も多く、かつ安価に市場に出回っています。
(※)これからは、晴れた空を見上げて
「トパーズ色の空だね!」
とかますのが流行るかもしれません、知らんけど。
◯スイスブルートパーズ
スカイブルーよりやや青の濃い色です。
残りの2色に比べて店頭で見かける機会が少なく。二つのブルーに挟まれて、独自の個性をアピールできていないからかもしれません。

◯ ロンドンブルートパーズ
スカイブルートパーズよりもずっと濃い色です。

サファイアを思わせますが、純粋な青というよりわずかに灰色の混ざったような若干暗めのニュアンスが魅力的です。
3種類の中では最も高価です。
【楽しいロンドン】
何度か石を買った店で先日、「これは今回入荷分の中で特にお勧め」と言われて、ロンドンブルートパーズを一つ買いました。
2.8カラットと大粒で色も良く、欠けや内包物等による濁りもない良い石でした。
金額の明記は避けますが、諭吉さんが登場する必要のない価格帯です。
宝石に詳しい店員さんのお勧めは素直に聞くタイプなのですが、今のところそれでハズレはありません。
【ミスティックトパーズ】
こちらはブルーではないのですが、無色のトパーズの有効活用のもう一つの例として。

無色のトパーズに、チタンの薄膜をコーティングすることで、光を当てるとキラキラした虹色に乱反射するように加工したものです。
幻想的な風情があって、人気が上がってきているようです。
最近になって開発された手法で、アメリカの会社が特許を持っています。
【宝石の価値とは】
宝石に人為的な手を加えることを嫌う意見は多く、その考えもよくわかります。
一方で、人が積み重ねた技術を用いて、より美しい宝石を、より多くの人に届けようとする営みも、決して間違ってはいないと思います。
自然が生み出し、人が磨き上げた美の結晶を眺め、その硬質な輝きに感嘆し、宝石として完成するまでの長い道のりに思いを馳せることはなかなかの楽しみです。
2.青以外のトパーズと「インペリアルトパーズ」について
(宝石日誌第19回 (2022年9月19日)より)
【カラーバリエーション】
トパーズの代表的な色はやはり薄茶色から濃褐色までのオレンジ・茶系だと思います。
最近は放射線照射処理を加えたブルートパーズが一大勢力となって、トパーズに新しいイメージを加えています。
トパーズは、フッ素や水酸基を含むアルミニウム珪酸塩化合物です。
若干一方向に割れやすい(劈開)性質があるものの、モース硬度8と申し分なく硬く、古くから知られた比較的扱いやすい宝石です。
仮にダイアモンドを王族とすると、華麗なルビーを含むコランダムが高貴な公爵家、トパーズは由緒正しく有力な伯爵家あたりに位置付けられるかと思います。
産出されるのは無色が最も多いことは先日書いたとおりですが、他にもピンク色などのカラーバリエーションがあります。
◯ホワイトトパーズ
無色のホワイトトパーズは、カットされたものを宝石店で見かけることはあまりありませんが、ハンドクラフトやカジュアルジュエリーの世界では、使い勝手のいい透明な石として使われていることがあるようです。

◯ピンクトパーズ
天然で算出される場合もあり、茶色系のトパーズに放射線照射を行ってピンクに変えたものも多いようです。


なお、ピンクがさらに濃くなって赤く見える「レッドトパーズ」も存在するようですが、大変稀少だとのことです。
【インペリアルトパーズ】
トパーズの組成について、フッ素や水酸基を含む、と書きましたが、このいずれを含むかで、同じトパーズでも性質が少し異なっています。


フッ素(元素記号F)を含むものは通称「Fタイプ」と呼ばれ、産出量はこちらの方がずっと多くなっています。
日光に当たり続けると褪色する(色があせる)性質があるため、保管は日の当たらない場所が適しています。
なお、ブルートパーズはこのFタイプですが、放射線処理を加えたことによって褪色しないように変化するようです。
フッ素の代わりに水酸基(OH)を含むものは、総称して「OHタイプ」と呼ばれます。Fタイプに比べて、屈折率が高く、褪色しにくい特徴があります。
日本ではこのタイプのトパーズを、一段階高級なものとして「インペリアルトパーズ」とのニックネームで呼んでいます(※)。
インペリアルトパーズは、薄茶色のものから、濃い褐色のものが主流です。
さらに赤みの強いレッドトパーズもあり、レッドトパーズになるとグンと稀少性は高まります。
総じて色の濃いものの方が、市場では高く評価されています。
私の好みは比較的色が薄い方で、好きな色の方が安いという有難い状態になっています。
(※)日本以外では「インペリアルトパーズ」に該当するかどうかは、化学組成(フッ素型か水酸基型か)ではなく、色の基準(オレンジ〜ピンク〜赤)によって決めることが多いようです。
いずれにせよ、世界最大の鑑別機関であるGIAの見解では、インペリアルトパーズという名称に公式な基準はないとされています。
(トパーズの価値を決めるのは名前に「インペリアル」が付くかどうかではなく、色なのです、とのコメントもありました。)
【本日のお散歩】
ルビーとのいつもの近所パトロールを終えて帰宅しました。
台風はまだ接近中のようですが、昨日激しい雨が降った後、今日は一転晴れています。
ちょっとわからない天気だねと言いながら、暑くなる前に朝散歩に出ました。
